綾野剛主演映画『渋谷』感想

※ネタバレ感想です。

新型コロナウィルス騒動で不要不急の外出ができなくなったので、TSUTAYAでいろいろ借りた中、ジャケットに惹かれて借りたのがこの『渋谷』だ。

渋谷 [DVD]

渋谷 [DVD]

  • 発売日: 2013/04/26
  • メディア: DVD

雰囲気はなんとなくアニメ『 Serial experiments lain』に似ている。

内容は、渋谷に生きる駆け出しカメラマンの青年と「楽だから」という理由で風俗で働いているかつて優等生だった少女の邂逅、そしてもたらされる癒しと再生。
こう書いたみただけでもありきたりな物語だ。冒頭に示される「私を探して」とだけ書かれた謎めいた履歴書の秘密も、すぐにその答えがわかるため全然ミステリアスではない。少女の描写も紋切り型。

しかしなぜか退屈ではなかった。まず佐津川愛美の演技が素晴らしい。風俗店で働く少女の切実さをリアルに演じきっていて演技という感じがしない。観ているうちに彼女に肩入れしたくなってくる。
綾野剛は今観ると非常に初々しい演技だがちゃんとリアリティがある。あんな風に存在感が薄くて死んだ魚の眼をした青年は渋谷にたくさん居た。たくさん居たけど、本当は綾野剛演じるカメラマンのように「他人に自分を見つけてほしい」人たちだったのかもしれない。

《誰かに求められることでしか自分の存在意義を感じられない》病理は現在も多くの人間が有する病理だ。風俗で働く少女はその表象と言っていい。
だがなぜ風俗なのか。それは風俗が金銭を介した疑似恋愛だからだろう。男が金を払って女を求める。女は決められた時間だけその男に奉仕する。金と時間が切れたらさようなら。愛情がない関係だからそれが出来るし、愛情がないから「楽」なのだ。

でも少女はその生き方に疲れている。精神を消耗し、誰かに助けてほしいと願っている。だから撮影モデルの募集に応募し、写真を貼付しないことで履歴書に目を引かせ「私を探して」とメッセージを発したのだろう。私はここに自傷行為をやめられない子供が発する言葉にならない悲鳴を聞く。

悲鳴は青年に正確に届いた。青年は少女が望んだように行動し、望んだ以上に少女を追い求める。その行動力の源泉は綾野剛がつぶやくこの独白に凝縮される。

「彼女を見つけられれば、自分がどこにいるのかわかるかもしれない」

青年も少女と同じように、自分の居場所も自分の存在意義もわからなかったのだ。

青年の言葉に心動かされた少女が夜行バスで故郷に帰る場面、写真を撮りながら綾野剛は半分泣いている。
少女はバスの中で、自分を追いかけ走り回り続けた彼を撮影した動画を見続ける。赤の他人がここまで純粋に自分を求めてくれた、そのことが彼女の支えになっている。これから何かつらいことがあっても、その動画を見ることで少女は自分を奮い立たせることができるだろう。

この映画の良さは二人が体の関係も持たず、恋愛関係になることもなく終わるところにある。心地よい余韻がここにはある。