古井由吉と大江健三郎

先日、古井由吉が亡くなった。 古井由吉の著作はデビュー作と『楽天記』『仮往生伝試文』が印象に残っている。古井由吉のデビュー作である『杳子』は、精神病を患った女性を保護者としてでも共依存の対象としてでもなく、あくまでそのまま受け容れる大学生の…

大江健三郎疲れ

大江健三郎作品の感想を書き留めようと始めたこのブログだが、いま現時点で大江健三郎最後の作品である『晩年様式集』の途中で躓いており『新しい人よ眼ざめよ』について書くことができないでいる。『晩年様式集』は大江健三郎の化身である長江古義人が、東…

さいたま市の喫茶店めぐり

お題「コーヒー」先日『おいしい珈琲を自宅で淹れる本』と『コーヒーの鬼がゆく 吉祥寺「もか」遺聞』を読んだことでコーヒー熱が高まったため、ハンドドリップのコーヒーを飲みに地元さいたま市の喫茶店を4店めぐってきました。ただ、ハンドドリップと言っ…

村上春樹とペーパーバック

今週のお題英語のペーパーバックを初めて読んだのは高校1年生の夏だった。当時私は村上春樹にはまっていたので、彼の書くものであれば小説のみならずエッセイもすべて読んでいた。その村上春樹が「高校時代はペーパーバックばかり読んでいた」とエッセイに書…

『コーヒーの鬼がゆく 吉祥寺「もか」遺聞』感想

コーヒーの鬼がゆく - 吉祥寺「もか」遺聞 (中公文庫)作者:嶋中 労発売日: 2011/12/20メディア: 文庫私は頑固であることや客にいろいろ注文をつけることを売りにする飲食店が苦手だ。くつろぐための食事の時間くらい客の自由にさせてくれと思う。 だが、この…

映画『そこのみにて光輝く』感想

※ネタバレ感想です。そこのみにて光輝く発売日: 2015/02/14メディア: Prime Videoまず拓児を演じる菅田将暉がとにかく素晴らしい。拓児のあのキャラクターが菅田将暉の素のままに感じられ、まったく演技をしているように見えない。自然すぎるほど自然で少し…

高校も大学も卒業式は出ていない

今週のお題「卒業」高校は2年生の11月に中退、大学は2留。そのため卒業式には出ていない。高校を中退したのは鬱病を発症したからだ。ある日、通学路で突然気持ちが悪くなり、吐き気を抑えられず道路にしゃがみこんだ。学校には仲の良い友達もいたし、いじめ…

綾野剛主演映画『渋谷』感想

※ネタバレ感想です。新型コロナウィルス騒動で不要不急の外出ができなくなったので、TSUTAYAでいろいろ借りた中、ジャケットに惹かれて借りたのがこの『渋谷』だ。渋谷 [DVD]発売日: 2013/04/26メディア: DVD雰囲気はなんとなくアニメ『 Serial experiments …

大江健三郎「蚤の幽霊」を読む

日々の生活の中で心底孤独を感じるときはいつだろうか。愛する者との死別や離別は非日常だから抜きにすれば、私は悪夢や金縛りから目覚めたときだ。悪夢から必死に逃れて暗闇の中で目覚め、自らの激しい鼓動と脈拍に恐れおののき、もう悪夢を見たり金縛りに…

綾野剛主演『影裏』は100%の恋愛映画です。

注 : 細かい内容にも触れるため、これから観る予定の方、観るかもしれない方は読まないほうが賢明です。 さて、タイトルにも書いたが、映画『影裏』は100%の恋愛映画である。もちろんこのキャッチコピーは村上春樹が『ノルウェイの森』につけたキャッチコピ…

大江健三郎「落ちる、落ちる、叫びながら……」と「蚤の幽霊」を読む

大江健三郎『新しい人よ眼ざめよ』の三編目「落ちる、落ちる、叫びながら……」と四編目「蚤の幽霊」はM(三島由紀夫)の自決をめぐる短篇だ。 「落ちる、落ちる、叫びながら……」では語り手が三島由紀夫の親衛隊員に思想的理由からネチネチと因縁をつけられる…

非常事態だからこそ美味しい珈琲を自宅で淹れる

今週のお題「うるう年」様々なイベントが中止になり、予定が狂ってしまった週末。こうなったら徹底的に美味しいコーヒーを追究しよう。ということでコーヒー指南本を熟読し、完璧な一杯を淹れることに決めた。参考にするのはその名もズバリ『おいしい珈琲を…

大江健三郎「怒りの大気に冷たい嬰児が立ちあがって」を読む

大江健三郎『新しい人よ眼ざめよ』の二編目「怒りの大気に冷たい嬰児が立ちあがって」は、イーヨーが生まれつき障害を持っていると知らされた親がそれをどう受容していくかについての物語である。 この主題について大江健三郎は幾度も小説に書いているが、初…

大江健三郎『新しい人よ眼ざめよ』「無垢の歌、経験の歌」を読む

大江健三郎『新しい人よ眼ざめよ』は七編の短編が収められた連絡短編集である。大江健三郎作品の中でも読みやすい文体、把握しやすい内容、想像しやすい情景で描かれており、なおかつ、読んでいて魂が慰められる。そのためか、私はこの短編集を幾度となく読…

どのように本を読むか。大江健三郎『「新しい人」の方へ』から学ぶ

母は、公民館の本を全部読んだ、もうこの村には読む本はない、と私がいった時、私をそこに連れ戻して、本棚の一冊一冊を取り出しては、この本にはどういうことが書いてあったか、とたずねたのです。 そして、私がろくに答えられないのを見てとると、 ーーあ…